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旭川地方裁判所 昭和61年(ワ)20号 判決 1990年1月30日

原告

笠木薫

右訴訟代理人弁護士

佐藤文彦

菅沼文雄

被告

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

千葉健夫

右指定代理人

布川富美夫

伊藤文孝

主文

一  原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は原告に対し昭和六一年一月一五日以降毎月二〇日限り金一六万四六八五円(ただし、昭和六一年一月分については金九万〇三〇〇円)及びこれに対する当該月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立て

原告は、主文第一ないし第三項と同旨の判決並びに第二項について仮執行の宣言を求め、被告は、「1 原告の請求をいずれも棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 被告は、日本国有鉄道法に基づいて設立され、昭和六二年四月一日日本国有鉄道改革法、日本国有鉄道清算事業団法により名称が日本国有鉄道(以下、「国鉄」という。)から日本国有鉄道清算事業団と変更された公法人である。

(二) 原告は、昭和五〇年一〇月一日被告との間で雇用契約を締結し、昭和六一年一月当時は旭川鉄道駅営業係の職にあり(ただし、組合専従として休職中。)、また、国鉄労働組合(以下、「国労」という。)に所属する組合員で、右当時は国労旭川地方本部青年部長の地位にあったものである。

2  免職の意思表示

旭川鉄道管理局長岡山惇は、原告に対し、国鉄総裁代理人として昭和六一年一月一四日付を以て日本国有鉄道法三一条により懲戒免職処分にするとの意思表示(以下、「本件免職処分」という。)をした。右処分の理由を記載した事由書には、「昭和六〇年九月三〇日、旭川車両センター構内において管理者の許可を得ることなく実施された国鉄労働組合旭川地方本部主催にかかる同車両センターの廃止に対する抗議集会等の際、管理者の制止にもかかわらず通用門より同構内に不法に侵入し再三にわたる管理者の退去勧告にも従わず、同日午後零時二〇分ころ、同通用門付近において職員等の同構内への違法立入りを制止していた同車両センター助役高橋修に対しては同人の胸ぐらを掴みあるいは腕をとり、苗穂工場内燃機職場助役笠井正和に対しては同人の腰腹部を背後から掴んで引倒すなど、同人等に対して暴力行為を働いてその職務を妨害し、うち笠井正和には腹部打撲傷により入院安静加療一週間の傷害を負わせたことは職員としての品位を傷つけ信用を失墜する著しく不都合な行為である。」旨の記載がある。しかし、本件免職処分は後記の再抗弁のとおり無効なものである。

3  賃金

原告は、本件免職処分当時、毎月二〇日限り一六万四六八五円の賃金の支払を受けていたが、本件免職処分以降の支払を受けていない。

4  よって、原告は、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに昭和六一年一月一五日以降毎月二〇日限り一六万四六八五円(ただし、昭和六一年一月分については九万〇三〇〇円)の賃金及びこれに対する当該月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、本件免職処分が無効なものであることは争い、その余は認める。

3  同3の事実は認める。

4  同4は争う。

三  抗弁(懲戒事由の存在)

1  被告は、国労旭川地方本部主催の旭川車両センター(以下、「車両センター」という。)廃止反対抗議集会(以下、「本件集会」という。)が昭和六〇年九月三〇日車両センター構内において開催されるとの情報を得たので、同日朝、国労旭川地方本部旭川工場支部(以下、「工場支部」という。)の執行委員長に対し、管理権に基づき、車両センター構内での集会は許可しない旨予め通告した上、車両センター正門・通用門等を閉鎖し、かつ正門の前後に二重のロープを張り、立入禁止札を取り付けて部外者の構内への立入禁止措置を講じたところ、原告は、同日午前一〇時ころ、同センター正門に現れ、管理者から構内への立入りは許可できない旨通告されたのに、これを無視して右ロープを乗り越えて侵入し、この阻止に当たった老松勇助役(以下、「老松助役」という。)に体当たりするなどして同構内に不法に立入り、同構内にある組合事務所に入った。

なお、原告は、当日被告からの再三退去の通告を受けたにもかかわらず本件集会後に至るまで車両センター構内にとどまった。

2  同日午後零時一五分ころには車両センター構内へ不法に侵入しようとする約二五〇名の部外者が同センター正門前に集結し、同所でこれを阻止すべく待機していた車両センターの嶋哲久計画科長(以下、「嶋科長」という。)を指揮者とする合計一一名の管理者と対峙していた。

原告は、そのころ工場支部の組合幹部らと共に組合事務所から正門付近に赴いた後、正門横の通用門から構外に出て、田辺工場支部副委員長(以下、「田辺副委員長」という。)と共に、正門の外側で部外者の侵入を阻止するための規制班の指揮をとっていた嶋科長の前面に立ちはだかり、同人を正面から抱きかかえるようにして四、五メートル後方の正門まで押し戻して門柱に押さえ付けるなどし、同人の指揮を妨害した。

正門前に集まっていた部外者らが原告らの右行為を契機に通用門から構内へ次々と侵入を始めたため、正門の内側で待機していた管理者がこれを規制しようとしたが、構内側にいた組合員らは、通用門に沿って二列の横隊列を組み、同隊列の間を通して部外者を構内に侵入させる方法で右規制を妨害した。

このため笠井正和助役(以下、「笠井助役」という。)ら管理者は、この隊列内に入り侵入者を門外へ押し戻して侵入を阻止しようとしたところ、原告が笠井助役の背後からその腰部を掴んで同人を引倒すなどしてその職務の執行を妨害し、同人に対し腹部打撲傷により入院安静加療一週間の傷害を負わせた。

また、原告は、午後零時二〇分ころ、同通用門付近において侵入者等に対する規制の任務にあたっていた車両センター助役高橋修(以下、「高橋助役」という。)に対して同人の胸ぐらを掴みあるいは腕をとる暴行を加えた。

右のとおり、原告は、国労旭川地方本部青年部長の立場で工場支部組合員約一四〇名を煽動しつつ、同組合員らと共に約二五〇名の部外者を車両センターの構内に不法に侵入させたものである。

3  原告のかかる行為は、正当な組合活動を逸脱した違法なものであり、企業秩序を甚だしく乱し、職員としての品位を傷つけ、かつ信用を失墜する著しく不都合な行為であるから、これを理由とした原告に対する本件免職処分には、なんらの違法はなく適正妥当なものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、被告がその主張する通告を行ったことは認めるが、その余は否認する。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の主張は争う。

五  再抗弁

1  不当労働行為

(一) 国労旭川地方本部は、被告が従前の労使間の確認等に違反して車両センターの廃止を前提とする入場停止、検修停止等の措置を一方的に強行しようとしたため、これに抗議するため昼休み時間に車両センター構内で集会を開催しようとしたもので、右集会は、市民のための公共輸送機関を確保し、また労働者の職場と雇用を守るために緊急の事態に対処するための正当な組合活動であった。また本件集会には組合員家族、車両センター職員以外の国労地方本部役員らが参加しているが、同人らは、車両センター廃止により直接影響を受ける関係者であり、労使関係においては一方当事者ないしは当事者に準ずる立場にあるからこれらの者が本件集会に参加してもその正当性が左右されるものではない。

(二) 国労が国鉄の敷地内で集会を開くことは、永年の労使慣行により許容されていたものである。

(三) 本件集会当日における国労組合員と管理者との衝突の最大の原因は、管理者が集会を不法に実力で阻止しようとしたことにあり、仮に原告がこれに抗議をした際に有形力の行使とみられる点があったとしても、その場の事情からしてやむを得ない程度のものであり、結果として傷害を負わせるなどということも一切なかったものである。被告は、右の行為を暴行・傷害行為であるとして懲戒免職処分という苛酷な処分に付したが、この処分の真の意図は、国労旭川地方本部青年部長として活発な組合活動をしてきた原告を職場から排除し、車両センター廃止に反対する国労の組合活動全般に牽制を加えようとするところにあるから、本件免職処分は、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為として無効なものである。

2  権利の濫用

車両センター構内におけるこれまでの集会の実施状況及び他の国鉄工場内における集会の実情からしても、本件集会に対する被告の妨害行為は他に例をみない異常なものであったし、原告は、集団行動に加わりその一員として正当な抗議をなしたにすぎない上、本件免職処分事由に主張されているような暴行はしておらず、この点について警察当局の捜査がなされたが不起訴処分とされたものである。このような事実からすると、本件免職処分は裁量権の範囲を逸脱したもので懲戒権の濫用として無効というべきである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(一)ないし(三)の事実は否認する。

2  同2の事実は争う。

第三証拠関係(略)

理由

一  当事者間に争いのない事実

請求の原因1ないし3の事実(ただし、請求の原因2の事実のうち、本件免職処分が無効であることは除く。)及び被告が本件集会当日の朝、工場支部執行委員長に対し、車両センター構内での集会は許可しない旨予め通告したことは当事者間に争いがない。

二  本件集会に至る経緯及び集会の状況

前記争いのない事実、(証拠略)検証の結果(第一、第二回)、原告本人尋問の結果(ただし、措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  車両センターは、明治三一年七月に鉄道院北海道管理局旭川工場として創立され、その後昭和四八年九月に工場再編成により苗穂工場旭川車両センターとなったもので、昭和五九年四月当時二九九名の職員を擁し、車両の検査・修繕の業務を遂行していたものである。

2  被告は、昭和五六年暮れ、行政管理庁から被告の六工場を廃止するように指導を受けて国労との間で交渉した結果、昭和五七年三月、国内二九工場のうち二工場を廃止するが、車両センターを含む二七工場を存続させることなどを文書で合意し確認した。

3  しかし、被告は、昭和五九年七月、国労に対し、新たに車両センターを含む三工場を廃止する旨の提案を行い、昭和五七年三月の確認事項の存在を理由にこれに反対する国労との間で交渉を続けた。この間旭川市を中心とする道北地方の市町村の議会で車両センター存置決議がなされたり、地方自治法九九条二項による同旨の意見書が提出され、また、旭川市長を会長とする旭川車両センター存置対策期成会などが結成されてその代表者による国鉄当局、運輸省に対する陳情等が行われていたが、被告は、昭和六〇年二月八日には当初の提案どおり同年一〇月に三工場を廃止する旨国労に通告した。

4  被告は、昭和六〇年九月二六日、国労本部に対し、廃止する工場から車両を他の工場に移動させるためのダイヤの設定、廃止する工場の設備を他の工場に移設する工事の着工計画等を提案したところ、国労本部は、被告の右提案は被告が旭川車両センター存置対策期成会の代表者等に対して地元の了解なしには廃止しないと約束していたことを無視し、また労使間の前記確認に違反するものであるとして、同日各地方本部に対し、被告に対する抗議の交渉、集会、座り込みなどをするよう指示した。

5  旭川工場支部は、右指示を受けて、翌二七日車両センター構内において車両センター廃止反対抗議集会を開催した。

なお、本件集会以前において、工場支部は、昭和六〇年一月以降全部で一三回の集会を車両センター構内で開催し、うち三回は本件集会と同様同構内の屋外で実施し、国労旭川地方本部の組合役員らの参加を得たこともあったが、集会を食堂用建物内で行う場合には書面で建物借用を願い出てその許可を得ていたものの、屋外で実施する場合には労務担当助役等に口頭でその旨伝えるにとどめていた。しかし、車両センター所長は、事後に今後は集会をしないように申入れをしたのみであって、事前に集会を中止するよう申入れをしたり、集会を実施したことに対し懲戒処分等の法的措置をとったりしたことは一度もなかった。

6  車両センター所長佐野守彦(以下、「佐野所長」という。)は、国労旭川地方本部が主催者となって同月三〇日に工場支部所属の組合員の家族や工場支部の所属ではない組合員等をも動員して車両センター構内で抗議集会を開催することを計画していることを知り、同月二七日、右抗議集会の開催を阻止することを目的として車両センターの管理者一八名をもって組織する対策本部を設置した。

佐野所長は、二七日及び二九日に車両センターの管理者を集めて対策会議を開き、集会当日は所長の許可のない者の構内立入りを禁止し、また、車両センターの職員でない者は被告の職員であっても部外者であるとした上で、苗穂工場からの応援者を含めた管理者を部外者が構内に入ることを規制する四つの班及び記録班に分け、それぞれの班長を指名し、総指揮者を佐野所長、現場の総責任者を嶋科長とするなどの警備体勢、役割分担等を決め、更に苗穂工場長に対し集会の警備のための応援を要請した。

7  苗穂工場長から車両センターでの集会の警備を応援するよう指示された一三名の同工場所属の管理者らは、同月三〇日午前一〇時前ころ、車両センターに到着し、嶋科長らから警備の具体的な指示を受けた。

8  車両センターの老松助役ら計画科助役三名は、同日午前一〇時ころまでに正門の外側と内側に工事用のバリケードを並べてロープを張り、更に立入禁止の札を各所に掲示した。

9  原告は、昭和五〇年四月に旭川鉄道管理局に採用され、昭和五八年四月から旭川駅営業係の職にあり、また同年一一月から国労旭川地方本部の青年部長、国労中央本部青年組織部長の立場にあったものであるが、本件集会の前に車両センター構内にある工場支部の組合事務所で同支部役員と打合せをするため、同日午前一〇時過ぎころ、車両センターの正門前に着いたところ、前記のとおりロープが張られていた上、老松助役らがその内側に立っているのを見て不審に思い、同助役に対し、「これは何だ、何をしている。」と尋ねると、同助役から「今日は午後一時まで所長の許可を得ないでは入場できません。」と言われ、組合に用事があるから入れて欲しい旨要求しても同様の応答があったので、そのままロープを持ち上げて下をくぐり工事用バリケードをまたいで正門の脇にある通用門の方に向かった際、その前に立ちはだかった老松助役の胸を右肩で押して後退させ、そのあと通用門の扉を手で押し開けて構内に入った。その際、原告は、その付近にいた管理者からも、今日は午後一時まで所長の許可がない者は入れないのでしばらく待つように言われたものの、これを無視して守衛室の中に入り、受付で備付けの用紙に氏名・身分・訪問先等所定の事項を記載した上、組合事務所に赴いて、工場支部の青年部長と打合せをするなどした。原告は、午前一〇時一〇分ころ車両センター構内の守衛室付近で奥良之助役から構外へ退去するよう通告された他、同助役から数回にわたって同様の通告をなされたが、これを無視して同構内にとどまった。

10  管理者らは、午前一一時過ぎころからそれぞれの持ち場についたが、正門及び通用門の扉の開閉が守衛室での操作により自動的に行われる仕組みになっているにもかかわらず、原告が手で押し開けただけで通用門の扉が簡単に開いたため、午後零時ころ通用門の扉をロープで門柱に縛りつけて固定した。

11  午後零時ころには車両センター正門前に、工場支部組合員でない集会参加者(以下、「部外者」という。)が集まり始め、午後零時一五分ころには約二五〇名となっていた。

12  原告は、組合事務所で打合せをした後、午後零時一五分に昼の休憩を知らせるサイレンが鳴ると同時に工場支部の役員らと共に組合事務所を出て正門前に来ると、すでに工場支部の役員により通用門を固定していたロープが解かれており、同通用門から正門の外に出たところ、同所に集まっていた部外者らは、永田稔光国労旭川地方本部書記長らを先頭にロープやバリケードを越え、通用門から構内に入ろうとしていた。

13  正門前で部外者と対峙していた嶋科長は、部外者がロープなどを越えて構内に入ろうとするや、記録担当の管理者に対してビデオカメラ等で状況を撮影するように、また、警備担当の管理者に対して部外者が構内に入ることを阻止するようそれぞれ指示したところ、原告及び田辺副委員長が同科長に近寄り、田辺副委員長において両手で嶋科長の両肘を押さえ付けた上、身体で押して後退させ、通用門と反対側の正門の門柱に同人を押し付け、その際、原告においても田辺副委員長の背後から身体を押し付けるなどして、これに加担した。

14  原告は、田辺副委員長がなおも嶋科長を右門柱に押し付けている間にその場を離れ、部外者らと共に通用門から構内に入った。そのころ、通用門内側付近においては、工場支部の役員が通用門の門柱に沿って二列の隊列を組み、部外者にその間を通過させるなどしていたのに対し、管理者がこれを阻止するため、隊列の中に身体を割り込ませたり、隊列の中に入って通過者の前に立ちはだかるなどし、三者が入り交って身体を接触させるなどの混乱状態が続いていた。その間原告自らは隊列の中には加わらず、その周辺で状況を注視するなどしているうち、部外者が次々と入って来るのを阻止するため、笠井助役が通用門に向かって歩いて行くのが目に入り、これを止めようとしてその背後から近づいた直後、同助役が腰からくだけ落ちる姿勢で倒れ込んできたので、とっさに両手でその腰部を掴み、同助役を引き上げつつ右半回転させ、そこでほぼ立ち上がった笠井助役の身体から手を離した。そのあと笠井助役は、構内側に向かって歩いて行った。

15  部外者らの大部分が構内に入った後の午後零時二五分ころから正門をはさんで、構内側に部外者及び工場支部組合員ら約四〇〇名が集合し、門外で組合役員らが自動車の上から演説をするなどして集会が開かれ、午後零時五〇分ころ散会した。

以上の事実が認められ、(証拠略)及び原告本人尋問の結果中の右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告は、原告が、午後零時二〇分ころ、通用門付近において部外者らを規制する任務に当たっていた高橋助役に対して同人の胸ぐらを掴みあるいは腕をとる暴行を加えた旨主張し、証人高橋修は「原告から胸ぐらを強く押されて何回か揺すられた。ネクタイが緩んだので右手で相手の手を払おうとしたとき、右肘を持って強く引っ張り出された。強引に引っ張られたので、四メートルほど構内側に飛ばされた。ビデオに写っている。」旨証言し、(証拠略)の記載中にもこれに沿う部分があるが、前記認定事実によれば、右同時刻ころは管理者が部外者の入構を阻止しようとして、多数の組合員らと互いに身体を押し付け合っていたことが認められ、このような具体的な状況下で、成年の男性である高橋助役が右肘を強く引っ張っられたからといって四メートルほど飛ばされたということは極めて不自然で、付近に多数の管理者がおり、ビデオカメラやスチールカメラで状況を撮影していた(前掲の各証拠により認められる。)にもかかわらず、目撃者や撮影フイルムが存在しないこと及び原告本人尋問の結果等に照らすと、証人高橋修の右証言及び(証拠略)の右記載部分は到底措信できず、他に被告主張の右事実は認めるに足りる証拠はない。

また、被告は、原告が工場支部の組合員を煽動しつつ同組合員と共に部外者を構内に不法に侵入させた旨主張し、前記認定事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、当時国労旭川地方本部の青年部長の立場にあって、被告の車両センター廃止に反対して国労の企画する抗議の活動等に積極的に参加していたもので、本件集会当日においても、午前一〇時ころから正午ころまで工場支部の青年部長と打合せをするなどしたのち、午後零時一五分ころから概ね工場支部の役員と行動を共にしたことはあったものの、本件集会は国労旭川地方本部の主催でなされたものであり、その場所、方法等について原告が工場支部役員・組合員に対して指揮・指示しうる立場にはなかったことが認められるし、原告が右役員らに被告の主張するような煽動を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

なお、被告は、原告が笠井助役に対し、同人を引倒すなどして入院安静加療一週間を要する腹部打撲傷の傷害を負わせた旨主張するが、前記認定のとおり、原告は、むしろ転びそうになって倒れ込んできた笠井助役の姿勢を立直らせたものであって、同助役に暴行を加えたとはいえないし、同助役に被告の主張どおりの傷害が生じたことについては証人笠井正和の証言中にこれに沿う部分があるが、(証拠略)に照らして到底措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

三  懲戒事由の存否について

右のとおり、原告は、本件集会当日、佐野所長がその許可のない者の車両センター構内への立入り及び同構内での集会を禁止し、その正門前にロープを張り、立入禁止の札も掲示するなどしていたにもかかわらず、同日午前一〇時過ぎころ、許可のない者は構内に入れない旨の注意をした老松助役の胸を右肩で押して通用門から同センター構内に立入り、奥助役から数回にわたって構外へ退去するよう通告されたにもかかわらず、これに従わないで本件集会後まで構内にとどまり、また、午後零時一五分過ぎころ正門前において、田辺副委員長に加担し、管理者らに警備上の指示を与えていた嶋科長を正門の門柱に押し付けるなどしてその職務を妨げたものであって、原告の右行為は、被告の就業規則一〇一条一六号の「職員としての品位を傷つけ、又は信用を失うべき非行のあった場合」又は少なくとも同条一七号の「その他著しく不都合な行為のあった場合」に該当するといわざるを得ないが、被告が主張している高橋助役に対する暴行及び笠井助役に対する暴行(傷害)等の点については、前叙のとおりこれがあったと認めるに足りる証拠はない。

四  本件免職処分の効力について

前記認定事実によれば、原告は被告の就業規則一〇一条一六号、又は少なくとも一七号に該当する行為を行ったと認められるが、その行為自体の他、その行為に至るまでの経緯、原因、動機、状況、結果等前記認定の諸事情に照らすと、本件免職処分は、右行為との対比において甚だしく均衡を失し、苛酷に過ぎるものであって、社会通念上合理性を欠くものといわざるを得ない。したがって、本件免職処分は、懲戒権の裁量の範囲を超え、その濫用にわたるものであって、無効というべきである。

五  賃金請求について

原告が本件免職処分当時、被告から毎月二〇日限り、一か月当たり一六万四六八五円の賃金の支払を受けていたが、本件免職処分以降の支払を受けていないことは、当事者間に争いがない。

六  結論

以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官 石山容示 裁判官 植垣勝裕)

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